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No.50
2010/01/06 (Wed) 23:50:07

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 三口でカレーパンを食べ終え、次にクリームパンを取り出す高橋を横目に、私はフェンスに深く寄りかかる。
 空は快晴。雲一つ無い見事な青空が広がっている。
 くだらない会話を聞き流しながら、ふぅとため息。
 どうしたものかと思う。原島少年の事もだけど、自分達の事。どうやって進展させていったらいいのか、恋愛経験値の低い自分には考え付かない。そもそもどうやったら、自分を意識させられるのだろう。
 どう理由をつけたら、デートの一つにでも誘えるだろう。
 ちろり、ともう一度高橋を盗み見る。
 口一杯にパンを頬張りながら、高塚君を小突いている高橋は一体何を考えているのだろう。
「……ちょぉ、菅野」
 比較的長閑な朝食を満喫していた私は、声を潜めた羽田にそちらの方向を向いた。
 何、と言おうとして、屋上が奇妙に静まり返っている事に気付く。
 顔を強張らせる羽田、小首を傾げる菜穂、微笑みながらも鋭く瞳を細める佐久間君。はしゃいでいた高塚君と高橋は一歩送れて、
「ちょっと、こっち来るよ……っ!」
興奮したような真知子の声が耳に届く頃には、私もぎょっと目を見張ってしまった。
 今まで遠くに居た筈の原島少年が、真っ直ぐこっちに歩いて来る。
 その視線は高橋に固定されていて、何だか睨んでいるような様子だ。
 原島少年の奥、彼の友人だと思われる幾名かだけが騒がしい。
 突然の事に驚いて、私は近付いてくる原島少年を見ている事しか出来ない。
 私達の一歩前で止まった原島少年は、高橋を睨み続けている。見上げる形の私達は全員訝しげで。
「……何か用かよ」
 不機嫌を隠しもしない高橋の低い声が、固まっていた私の身体を解いた。
 勢い良く横を向いて高橋の様子を窺ってみても、その目は私の方へは向かない。原島少年を真正面から睨み返している。
「高橋先輩に、聞きたい事があります」
 原島少年の態度は、見た事も無い程ふてぶてしかった。ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、先輩と対峙するにはあるまじき状態で、不躾にそんな事を言われている高橋君以外もむっと顔を顰めている。羽田は黙ってはいるが、その目は人を射殺せそうな程の殺気を含んでいるような気がする。そう感じたのは私の錯覚かもしれないけれど。
 突発的な事象にはすこぶる弱い私は、一人うろたえて高橋と原島少年を交互に見つめてしまう。
 何でこの原島少年は、何時も何時もギャラリーが多い所でこんな風に寄ってくるのだ。
 衆人環視の目に晒されて居心地が悪いでは無いか。
 今の今まではちらちらと控えめに向けられていた辺りの視線は、原島少年の登場で不躾なものに変わっている。
「……聞きたい事だぁ?」
 恐らく原島少年と高橋は初対面の筈だ。なのにお互いが不愉快極まりないというオーラを纏っている。初対面の後輩にこんな態度をされている高橋はいいとしても、原島少年の態度は一体何なのだろう。
 最早二人にとって私達は空気に等しいのかもしれない。
「おいおい、何だよ二人とも」
 居心地が悪い空気に音を上げたのかおちゃらけた口調で二人を遮った高塚君を綺麗に無視。――高塚君だからかもしれないけれど、サッカー部の原島少年にとっては高塚君は部活の先輩でもある筈で。後輩に無視されている状態にも高塚君は
「無視すんなよ、寂しいだろ」
とかぶつぶつ言っているので、もしかしたら何時もの事なのかもしれない。
 なんて、現実逃避している場合じゃなかった。
「二人、付き合ってるんすよね?」
 ――予感はしていた……のだけれど、どストレートにそんな話をしてくるとは思っていなかった私は唖然。
 場所を考えてくれ、頼むから!!
「そうだよ」
 感情の乗らない声音で、高橋はそれにあっさりと応じる。
 瞬間、ギャラリーから悲鳴だとか歓声だとかが響く。
 でも二人はどよめきなど全然気にせず、睨み合うだけ。
「ちょっと!」
 思わず立ち上がって二人の間に割って入ろうとすれば、羽田に腕を引っ張られて元の位置に戻されてしまう。
 非難を込めて羽田に目を向ければ、彼女は首を横に振る。
 いや、意味分からないから!!
 私の手首を掴んだまま、「しっ」と人差し指を唇に当てて、その顔がまた二人に向き直った。
 心臓がばくばくうるさい。
 この場から逃げ去りたい。
 やめて欲しい。
 だけど、耳も目も、その他の感覚も、全て二人に向いてしまう。
「高橋先輩が理子先輩を好きなようには全然見えないんすけど」
「……お前にどう見えようが、俺と理子は付き合ってんだよ」
「理子先輩が好きなんですかって聞いてるんすよ」
「だから付き合ってんだろ!!」
”っきゃー!!!”
 女生徒の黄色い声に、私も心の中で同調してしまった。
 嘘だって分かっているのだけれど、高橋の口からそれっぽい言葉が出る度に顔がにやけそうになる。顔を引き締めようとしても口の端が笑みを作ってしまうから、私は俯いた。
 これはもしかしなくても修羅場なのだろうか。



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無題
はじめまして☆です。
この理子のお話スゴイ好きです(>O<♪
続きが気になって気になって…
今後、どうなってくるのか楽しみです☆
のんびり、待ってまぁ~す♪

あ…ちなみに私もff13三昧ってます。。
亀みたいにじわじわ進んでます(笑)
りお 2010/01/08(Fri)13:37:15 編集
はじめまして
りお様、いらっしゃいませ。
訪問・コメントありがとうございます!

ゆっくりゆっくり更新しております、キミコイ……続きは、もう、そろそろ新展開……がくるようなこないような(笑)
現実では中々無いような展開にもって行きたいのですが、果たしてどうなるでしょう…管理人本人も若干行き当たりばったりでお送りしてます(え)
そんなお話ですが、最後までお付き合い頂ければ嬉しく思います!!

FF13…私、完全に止まってしまいました…(笑)電源を入れて、オープニングを延々と流し…コンテニューする気になれず消す、みたいな…もうすぐ終わりだと分かっているからこそ、何だか終わらせたくない、と感じてしまっております…。まだ全然満足してないのにもう終わり!?という感覚が抜けるまでもう少し放置するんだろうな…
管理人 2010/01/10(Sun)02:31:23 編集
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