――相変わらず、理子からの音沙汰は無い。
クラスも違えば部活も違うから、昼食を一緒に取らないと関わる機会が無い事に気付く。
「菜穂達一緒に食べたくないって」
と、佐久間から直球で言われたのは、あの日の翌日。菜穂と佐久間はやっとカップルらしく二人で昼をとるようになって、日向も高塚もクラスの友人と一緒するようになった。理子達も恐らくそうなのだろうと思う。
メールは相変わらず無視。俺も謝る以外にどうする事も出来ないから、そのまま放置の態勢が続いている。
このまま時間が過ぎて、元に戻るのか、あるいは縁が切れるのか。後者になるような気がする。
よくよく考えてみれば俺たちの繋がりなんて、そんな薄いものなのだ。
非常に気まずい。
謝って謝って、謝り倒してそれで済むなら、そうするのだが。
「そういう事じゃないでしょ」
止むに止まれず部活中の羽田を掴まえて相談してみれば、ばっさり切られた。
「アンタの馬鹿さなんて、今更どうにもなんないし。謝ったからって済む話じゃないでしょ。無かった事にはなんないんだから」
隠しもしない大きなため息。タオルで汗を拭いながら、舌打ちまでつけてくれる。
俺もバスケットボールを、手持ち無沙汰に持ち替えてみる。
「……そんなこたぁ分かってるよ」
部活中にこんな風に他の事に気を取られるなんて、かつて無い事だ。何時もボールを追っていれば、それ以外の事は考えようとしても頭から抜け落ちてしまう。何時だって身体を動かしていれば、すっきりする。
――のに。
「……面倒くせぇなぁ」
ぼやけば、後頭部を力一杯叩かれた。
「いてぇよ!!」
「自業自得だよっ! っていうか、何だ今の発言」
怒気を膨らませる羽田は、非常に恐ろしい。
「大体アンタは理子の気持ちってものをちっとも分かってない!」
そんな事を言われても、という話である。
不満が顔に出てしまっていたのか、羽田がもう一度舌打ちして蹴りをくれて来た。足癖の悪いこの女から、最近とみに蹴りをくらっている気がする。
「分からない事を分からないままにしてんなよ、ボケ! 少しは考えろ、バカ」
口汚くそんな事を言って、肩を怒らせた羽田は仲間の輪へ戻っていってしまう。
ボケだとかバカだとか、まったく散々な言い方だ。ちっとも相談に乗ってくれない女だと分かっていたのに、話しかけたのは俺の失態だろう。
けれど既に、佐久間には笑顔で「馬鹿につける薬は無いっていうよね」と遠回しに拒否されたし、日向には「お子様には言ってもわからないかなー」と拒絶されているのだ。
じゃあ一体俺はどうしたらいいのだ。
大体、何を、どう、考えたらいいのか。
理子が怒ってる理由? そんなのは分かりきっている。偽彼氏の身分で、キスしたからだろう。
どうやって理子に許してもらうか? 謝る以外に何がある?
謝って済む問題じゃない、と言うのなら、解決策くらい教えて欲しいものだ。
結局何度考えたって、それ以上の答えには行き着かず、しばらく悶々としながら、俺は日々を過ごした。
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