タケはそろそろ、自分の立場を自覚した方が良いだろう、とは思っていた。
見当違いの事に悩み続ける、救いようの無い鈍さの結果、理子サンとの友情が壊れても、その前にタケが自分の気持ちに気付いたとしても、そこまでは自分が感知すべき事ではないだろうと。
菜穂はどうにかして二人をくっつけようとしているみたいだったけど、この程度のタイミングの悪さで駄目になるようであれば、今後が難しいだろうと俺は思っていて。だから友達甲斐が無いと言われても、こればっかりはタケがどうにかするべきだと考えていた。
だのに、どうしてタケという男は。
思い立ったら吉日、考える前に即行動。
それが引き金になって何度も失敗しているというのに、今回もまた、どうしてそう人前で事を大きくするのだろう。
放課後、菜穂の迎えを待っていた俺も、タケの突然の来訪を傍観する事になった。
強張った理子サンを見てよわったな、とは思っても、すぐに羽田が間に入ったから、タケの阿呆さを苦く感じながらも様子を窺う。
何から何まで、周りにいらぬ邪推をさせそうな三人の様子。
羽田も羽田でこういう時に理子サンの気持ちを憚る事をしない。
どうしたもんか、と黙考している間に、タケが羽田を押しのけて理子サンの手を取る。
この場で修羅場にならなくて良かった、のだが。
俺はただ不安にばかりなってしまう。
静まり返っていた教室が、二人が出て行った後、すぐに騒がしくなった。ひそひそ、と交わされる幾つもの会話が耳に入る。
「佐久間、アレどうなってんの」
とか、事情を問うてくる友人には曖昧に笑うだけ。
二人の背を険しい顔で見送っていた羽田が、しばらくの後動く。
教室を飛び出ていく羽田を、慌てて追いかけた。
「羽田!!」
思わず、廊下で大声を上げてしまう。
「……何」
それでも止まってくれないから、羽田の腕を掴んで歩みを止めると、振り返った顔は般若の如き恐ろしいものだった。
「いや、ほっといてやりなよ。というか、二人にしてやって」
「邪魔はしないよ」
「いや、それは分かってるけど」
特別、腕を振り払おうとはしない。けれど顔面一杯で、離せと訴えてくる羽田。
廊下で騒ぐと、俺たちまで注目されてしまうだろう。
穏やかに微笑んで、何とか羽田を落ち着けようとするのだけれど、その意図が分かったのか羽田はわざとらしく舌打ちしてみせた。
「これからがいいとこでしょうが」
と声を潜めてため息をつく顔は、何時ものおちゃらけた様子を覗かせる。
「覗きなんていい趣味だね」
「でしょ」
嫌味もちっとも意に介さない。
この人は、こんな時も二人の観察をやめないつもりなのだろうか。心中でため息が出てしまうのは仕方が無いだろう。
何時かノケモノにされた、二人のホワイトデーデートの尾行といい、友人想いのいい所が全てそれで帳消しにされてしまうのが、何だか不憫でならない。
「佐久間」
そんな俺の心情を理解していても、気にし無いのが羽田だ。
「アタシ達には、その権利があるでしょうが」
思わず頷いてしまいそうな、説得力。
俺が何とも言えずに黙り込むと、羽田はにやり、と邪悪に笑う。
「佐久間」
「はい」
もう一度名前を呼ばれて、肩を叩かれた。
「いいから、皆を呼んで来い」
「………ラジャー」
結局、俺も羽田には勝てない。
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