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No.250
2011/10/12 (Wed) 03:14:29


「あんたなんて知らない」
 そう言ったのは、見知らぬ男の車に乗って去っていった母親だった。何時も何もかもを諦めたような、それでいて悲しそうな顔をしていた母親は、最後の日、まるで憎いものを見るようにも見える冷たい視線で、俺を見下ろして。伸ばした俺の手を躊躇い無く振り払って行った。
「お前が男に生まれていたら」
 そう言うのは、何時も父親だった。母が癇癪を起す度、俺が竹刀を振るう度。よくやったと頭を撫でる傍ら、悔しそうに、唇の片端に皮肉んだ笑みを乗せて。
「お前がいなければ」
 そう言い捨てたのは、家を出て行く長兄。両親が離婚した時には泣き喚く弟を抱きしめて唇を引き結んで堪えていた兄は、その後事ある事に父親と衝突して、高校卒業と同時に家を出た。それきり、次兄とが弟とは連絡を取り合っているようではあったけれど、一度も顔を見て居ない。
「お前の所為だろ」
 次兄はうまく家族の間を取り持ちながらも、俺の葛藤を吐き捨てた。父親の容赦のない指導に弱音を吐いた時も、家族の崩壊を嘆いた時も、けして俺を否定したり蔑んだりしないかわりに、当然の事だと淡々と言い募る。
「あんたさえ居なければ」
 父親に竹刀を取り上げられ静かに涙を流した弟は、まるで呪詛を吐き出すように、怒りの篭った瞳で俺を見ていた。沢山の事を我慢して我慢して、ついには涙も枯れ果てたのか、泣かなくなった代わりに笑う事すら忘れてしまったかのように――そうして、俺の存在も黙殺して。
 俺の『良かれ』が全て裏目に出て、修復できない位に壊れてしまった。
 それでも『家族』という血の繋がりだけが唯一、繋ぎ止めてくれた居場所。
 必死にそんなか細い糸に縋る俺の傍に、高志は何時も居てくれた。
「大丈夫」
と高志が根拠も無いのに笑ってくれれば、何時も大丈夫な気がしたのだ。何が、なんて分からない。何で、なんて分からない。
 それでも、安心をくれたから。
 だからどんなに鬱屈しても、気持ちを立て直す事が出来た。
 でもここには、俺を責め立てる『過去』もなければ、無条件の赦しをくれる『高志』もいない。
 それでも『記憶』が残るから、俺は逃げ出せずにもがいてる。

 ――否。
 逃げようとしている自分が、何よりも誰よりも、厭わしいのだ。

 この世界に、この、国に。
 居心地の良さを感じるなんて、あってはならない。
 ましてやそれが、ブラッドとしてでも、他の誰でもなく。
 ナガセツカサとして、ここに居たいなんて。
 そんな事はきっと、高志だって許してはくれないだろう。



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