No.251
2011/10/17 (Mon) 03:29:37
こっちもブログ更新してみる。
クラウスの過去話、続き。
クラウスの過去話、続き。
ラピスラズリは初め、麻薬の一種としてイタリアの片隅で流布した。麻薬の特性であるトリップというような現象は見られず、鎮痛作用や気持ちが良くなる、という作用をもたらすものだったが、単純に合法じゃないという理由で麻薬として取り扱われていたのだ。
しかし医学的に毒性が無い、と証明され、その作用が様々な病気に効果があると認知されてからは、家庭薬品として簡単に用いられる程世間一般に浸透し、飛躍的に売れる事となった。
多くの麻薬がそうであるように、出所が不確かであるにも関わらず、である。
『宝石のようなタブレット』というキャッチフレーズで売れに売れたラピスラズリが、その猛威を振るうのは数年後だ。
ある一定の時期を境に生まれてくる赤子の成長異常が取り出された初期、それは原因不明の未病であり、その治療にはラピスラズリが使用された。DNAの異常だと思われた脅威の成長速度にこそ作用しなかったが、風邪一つで命を落としていたその赤子達の命を繋ぎ止めた功績から、一時はラピスラズリを万病の薬とうたったが、結局は全ての原因がラピスラズリであったと知れるには更に数年を要した。
当時、ラピスラズリは一家に常備される薬の一つであり、服用していない者の方が珍しい時代である。その中で成長異常の赤子の母親をラピスラズリ服用者と特定する理由すらなかった。
だが蓋を開けてみれば妊娠中もかなりの頻度でラピスラズリを服用していた母体から生まれた赤子が100パーセント成長異常で生まれており、赤子の内命を繋ぎ止めたとされた70パーセントはラピスラズリを処方されていた。残りの30パーセントはラピスラズリでの治療を施されず、命を落とした事になる。
この事からラピスラズリは完全なる麻薬であったと、位置付ける。
そしてラピスラズリ患者と呼ばれる子供たちは薬物中毒である。
それが誰にとっても不測の事態であったからこそ誰も彼もが言明を避けたが、己らの世界にとても許容し難い存在が、憐れなラピスラズリ患者だった。
そしてそれは政府にこそ最たるものだったが、ラピスラズリを奨励していた政府が彼らを忌避できる筈も無く、彼らの保護と様々な免除項目を盛り込んだ法令を発布する事で保身を図った。その一つである金銭援助はラピスラズリ患者の保護者のみならず、ラピスラズリ患者が生活する市町村や各施設に対しても同様だった。
またクラウスやその祖母などがのたまった、金持ちの道楽としか言えない保護団体の存在もその一つと言える。ある種の慈善事業であるそれにより、金持ちは自家や自社の名を売ると共に、政府に貸しを作る。
甘い蜜を提示する事で世間を賑わしたラピスラズリ事件は一応の収束を見せる事になるのだが――そこに含まれた毒はけして消えるものでは無い。
ラピスラズリ患者が本当の意味で受け入れられる事は、けして無かったのである。
クラウス・ルネッリが炭鉱跡の小さな村から保護団体の支援を求めて街にやって来た当初、街は彼ら親子に同情を持って歓迎した。
ラピスラズリ患者は幾人か同じ様に街に住んでいたが既に成人していた者が多く、幼年期には奇異の目の中で育ったそれらも、法令が施行されてからは社会の一部として受け入れられていたし、彼らのもたらす恩恵を享受してもいた。
ラピスラズリ患者第一世代と言われる彼らは成人した後、見目こそ病弱な程白い肌が目立ったが、それ以外には天才的な頭脳と脅威の身体能力を除けば常人と変らないのである。その内の一人、二人が世界で活躍している事も踏まえ、街はラピスラズリ患者第二世代のクラウスをそれ程までの厄介とは感じて居なかった。
母親の生い立ちや素性がすこしばかり汚いものでも、それがどうした、と。
彼らは第二世代の気性を、知らなかった。
第一世代の子供達はラピスラズリによって体内に起こったバグをラピスラズリによって修正しなければ、生存が不可能であった。平均して七歳頃まではラピスラズリを服用する事で安定を図り、その後は至って正常の生活を送る事が可能である。しかしその第一世代の人間が産み落とす第二世代は、修正すべきバグがスペックの一部であり、それは生死に関わる脅威ではない。勿論バグはバグであるから除去するに越したことは無いが、それをする為には更にラピスラズリを服用する必要がある。しかしそれではラピスラズリの連鎖は断ち切れない。従って、第二世代はバグを抱えたまま成長する。
そのバグが、クラウスにとっては気性だった。彼は喜怒哀楽の内の『怒』の感情が抑制出来ないというバグを持つ。何に対しても誰に対しても、まず感じるのが『怒』なのである。何をしていても誰といても、先立つのは苛立ちであり、それは常に暴力となって発露された。
理由無く暴れる『狂犬』。
導火線無く爆ぜる『爆弾』。
クラウスがそんな評価を得るまでに、そう時間はかからない。
歓迎のムードは一転して、ルネッリ親子は疎外されていった。
だからこそ、だ。
クラウス・ルネッリが母親を殺して逃走した時、誰もが安堵した。真実など疑うべくもなく、当然の事と受け止めた。
誰もが、クラウスを庇う素振りなど見せなかった。
ロッティ家がその事実を知った時、クラウスの行方は既に闇の中だった――。
しかし医学的に毒性が無い、と証明され、その作用が様々な病気に効果があると認知されてからは、家庭薬品として簡単に用いられる程世間一般に浸透し、飛躍的に売れる事となった。
多くの麻薬がそうであるように、出所が不確かであるにも関わらず、である。
『宝石のようなタブレット』というキャッチフレーズで売れに売れたラピスラズリが、その猛威を振るうのは数年後だ。
ある一定の時期を境に生まれてくる赤子の成長異常が取り出された初期、それは原因不明の未病であり、その治療にはラピスラズリが使用された。DNAの異常だと思われた脅威の成長速度にこそ作用しなかったが、風邪一つで命を落としていたその赤子達の命を繋ぎ止めた功績から、一時はラピスラズリを万病の薬とうたったが、結局は全ての原因がラピスラズリであったと知れるには更に数年を要した。
当時、ラピスラズリは一家に常備される薬の一つであり、服用していない者の方が珍しい時代である。その中で成長異常の赤子の母親をラピスラズリ服用者と特定する理由すらなかった。
だが蓋を開けてみれば妊娠中もかなりの頻度でラピスラズリを服用していた母体から生まれた赤子が100パーセント成長異常で生まれており、赤子の内命を繋ぎ止めたとされた70パーセントはラピスラズリを処方されていた。残りの30パーセントはラピスラズリでの治療を施されず、命を落とした事になる。
この事からラピスラズリは完全なる麻薬であったと、位置付ける。
そしてラピスラズリ患者と呼ばれる子供たちは薬物中毒である。
それが誰にとっても不測の事態であったからこそ誰も彼もが言明を避けたが、己らの世界にとても許容し難い存在が、憐れなラピスラズリ患者だった。
そしてそれは政府にこそ最たるものだったが、ラピスラズリを奨励していた政府が彼らを忌避できる筈も無く、彼らの保護と様々な免除項目を盛り込んだ法令を発布する事で保身を図った。その一つである金銭援助はラピスラズリ患者の保護者のみならず、ラピスラズリ患者が生活する市町村や各施設に対しても同様だった。
またクラウスやその祖母などがのたまった、金持ちの道楽としか言えない保護団体の存在もその一つと言える。ある種の慈善事業であるそれにより、金持ちは自家や自社の名を売ると共に、政府に貸しを作る。
甘い蜜を提示する事で世間を賑わしたラピスラズリ事件は一応の収束を見せる事になるのだが――そこに含まれた毒はけして消えるものでは無い。
ラピスラズリ患者が本当の意味で受け入れられる事は、けして無かったのである。
クラウス・ルネッリが炭鉱跡の小さな村から保護団体の支援を求めて街にやって来た当初、街は彼ら親子に同情を持って歓迎した。
ラピスラズリ患者は幾人か同じ様に街に住んでいたが既に成人していた者が多く、幼年期には奇異の目の中で育ったそれらも、法令が施行されてからは社会の一部として受け入れられていたし、彼らのもたらす恩恵を享受してもいた。
ラピスラズリ患者第一世代と言われる彼らは成人した後、見目こそ病弱な程白い肌が目立ったが、それ以外には天才的な頭脳と脅威の身体能力を除けば常人と変らないのである。その内の一人、二人が世界で活躍している事も踏まえ、街はラピスラズリ患者第二世代のクラウスをそれ程までの厄介とは感じて居なかった。
母親の生い立ちや素性がすこしばかり汚いものでも、それがどうした、と。
彼らは第二世代の気性を、知らなかった。
第一世代の子供達はラピスラズリによって体内に起こったバグをラピスラズリによって修正しなければ、生存が不可能であった。平均して七歳頃まではラピスラズリを服用する事で安定を図り、その後は至って正常の生活を送る事が可能である。しかしその第一世代の人間が産み落とす第二世代は、修正すべきバグがスペックの一部であり、それは生死に関わる脅威ではない。勿論バグはバグであるから除去するに越したことは無いが、それをする為には更にラピスラズリを服用する必要がある。しかしそれではラピスラズリの連鎖は断ち切れない。従って、第二世代はバグを抱えたまま成長する。
そのバグが、クラウスにとっては気性だった。彼は喜怒哀楽の内の『怒』の感情が抑制出来ないというバグを持つ。何に対しても誰に対しても、まず感じるのが『怒』なのである。何をしていても誰といても、先立つのは苛立ちであり、それは常に暴力となって発露された。
理由無く暴れる『狂犬』。
導火線無く爆ぜる『爆弾』。
クラウスがそんな評価を得るまでに、そう時間はかからない。
歓迎のムードは一転して、ルネッリ親子は疎外されていった。
だからこそ、だ。
クラウス・ルネッリが母親を殺して逃走した時、誰もが安堵した。真実など疑うべくもなく、当然の事と受け止めた。
誰もが、クラウスを庇う素振りなど見せなかった。
ロッティ家がその事実を知った時、クラウスの行方は既に闇の中だった――。
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