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No.245
2011/10/01 (Sat) 00:51:58

高橋紀子とその夫、悠の馴れ初め。続き。


 菊池に連れて行かれた指導室は、三畳程の手狭な空間に長テーブルとパイプ椅子が置かれているだけの部屋だ。
 多くの生徒がこの部屋で説教をくらったり、反省文を書かされたりする。
 結局最後まで私の手を離さなかった菊池は、部屋に入るなりおもむろに煙草を吸いだして、まるで私の存在なんて認識していないようだった。
 先程までの怒りも冷めない私は気分に任せて部屋を出てやろうと思っていたけど、生憎教室唯一の出入り口であるドアの前に菊池が立っているので、狭い部屋に煙が充満していくのを苦く見ている事しか出来なかった。
 抗議の声を上げるのも何故だか菊池に負けた気がして、私はただパイプ椅子に乱暴に座る事で怒りを示し、後は我慢大会のように、授業終了のチャイムが鳴るまでの小一時間、お互いに沈黙を通した。
 そうして、最初の一日は過ぎたけれど――それからも、素行を改めなかった私は、何度か指導室で菊池と相対する羽目となった。
 勿論、指導室にお世話になるのは私だけでは無い。友人の何人かも同じ様に指導室行きになって、しかし彼女達の中では、何故だか菊池の株が上がっているようで釈然としなかった。
 友人曰く、菊池は意外に格好良くて、聞き上手で、つまらない説教や薀蓄を聞かせない、話せる大人だ、というのだ。
 私の持つ菊池の印象と、随分違う。
 格好良いというのは――まあ、何ていうか、分からなくも無い。細身だが背も高く、どこぞの体育教師のように筋肉はついているけど汗臭くて短足、という事もない。着ているワイシャツも、教師の月給で買える程度の、ブランドもののような気取った上品さはないけれど何時も清潔感が漂って、染み付いた煙草臭は、いきがったどこぞの先輩のように違和なく漂ってくる。顔立ちも、眼鏡と長い前髪が邪魔だけれど、それなりに良いようには見える。
 ただ、私の弟の健が同じ年頃になれば倍は格好良いだろうと思う。
 ――見た目だけを上げれば、周りの中学生や高校生、勿論教師達の中では、ダントツ、と言えなくもないのだろう。
 ただし好感度を感じられる性格だとは、全く思えない。
 
 そんな菊池の指導を受けるようになって、五回目か、六回目。
 その頃には菊池の存在も長い沈黙も、大した事では無くなって。
 私はテーブルに突っ伏して居眠りをする、というのが、最早習慣のようになっていた。

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