No.244
2011/09/26 (Mon) 10:50:03
陛下の逆襲は、まだです。

ざわめきの増した場内と静まった個室の空気を感じながら、つらりそんな事を考えながら、俺もジュースのような甘いそれを飲み下す。
改めて見回す室内には、あまり現実感が無い。それほど、俺に関わりの無い世界だ。
色とりどりのドレスを纏い、さざめく女性達。まるでおとぎ話のような、キラキラと輝く夢のような世界。
そんな場所なのに、今はもう見慣れた顔があるのが不思議だ。
リカルド二世陛下を護衛するライドはまるで正装が似合わず、本人もそれを自覚してか居心地が悪そう。ウィリアムさんは若い娘さんに囲まれて、何だかすごく楽しそう。何時かのお茶会で出逢ったご令嬢や、俺の先生の一人のローラさんとその夫君――皆が皆、それぞれにこの場に溶け込んでいた。
その中で王冠を被ったリカルド二世陛下だけが一人、凍てついた空気を纏っている。周囲におべっか使いの臣下を侍らしながら、にこりともせず、嫌な顔をするわけでもなく、ただ存在する。
その傍らには、リカルド二世陛下の代わりとばかりに愛想を振り撒くファティマ姫がいる。彼女は時々陛下に惜しみない微笑みを見せ、大胆な程に擦り寄るけれど、リカルド二世の態度は彼女を受け入れても拒絶してもいない。
ファティマ姫もリカルド二世も、すごい人だと思う。
誰もが見惚れる美貌を持って今だって周囲を虜にしているファティマ姫の執着の相手はリカルド二世で、そのリカルド二世は麗しの姫君の目に見える愛情表現を意にも介さない。べったりと寄り添っている筈の二人の距離感は天と地ほどもありそうだし、俺の目からは不毛な関係にしか見えない。
どう見ても、一方通行な愛情。
それなのに二人とも平然としているのだから、すごいとしか言えない。
隣り合うファティマ姫とリカルド二世はどこまでも自然で、それなのにどこまでも不自然だ。
侘しい、というか、寂しい。
結婚してもあの二人は死ぬまで、ああやって歪な関係を続けていくのだろうか。疲れないのだろうか。お互いの持つ柵や欲だけでその選択を選び取れるのなら、俺の葛藤など随分ちっぽけなものに見えてしまうだろう。
きっとリカルド二世は理性で最善を選べる人だ。感情を切り捨てて、迷いも無く、一等の人生を歩んでいく。
泰然と立つリカルド二世に仄暗い感情が沸いてくる。
あの人の目に、右往左往する俺は煩わしく映るのだろう。感情に振り回されて、結局何も選べない俺が、愚かに映るのだろう。
憎悪でもってリカルド二世を睨んでいたから、というわけでは無いだろう。ただ何気なく、ふ、と顔を向けてきたリカルド二世の視線が僅かに俺の顔を掠めて、けれどこちらを認識した筈も無く、すぐに離れた。
リカルド二世の感情を乗せない瞳は、そうして俺をちっぽけな石ころにする。
だから、貴方が嫌いだよ。
重しをつけて沈めた感情を、リカルド二世の色のない表情が何時も浮上させる。
この世界に来てから、あの人に出会ってから――心は粟立ち、感情が燻り続けている。
だから、あの人が嫌い。
泣くことしか知らない幼い俺が、蘇るから。
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改めて見回す室内には、あまり現実感が無い。それほど、俺に関わりの無い世界だ。
色とりどりのドレスを纏い、さざめく女性達。まるでおとぎ話のような、キラキラと輝く夢のような世界。
そんな場所なのに、今はもう見慣れた顔があるのが不思議だ。
リカルド二世陛下を護衛するライドはまるで正装が似合わず、本人もそれを自覚してか居心地が悪そう。ウィリアムさんは若い娘さんに囲まれて、何だかすごく楽しそう。何時かのお茶会で出逢ったご令嬢や、俺の先生の一人のローラさんとその夫君――皆が皆、それぞれにこの場に溶け込んでいた。
その中で王冠を被ったリカルド二世陛下だけが一人、凍てついた空気を纏っている。周囲におべっか使いの臣下を侍らしながら、にこりともせず、嫌な顔をするわけでもなく、ただ存在する。
その傍らには、リカルド二世陛下の代わりとばかりに愛想を振り撒くファティマ姫がいる。彼女は時々陛下に惜しみない微笑みを見せ、大胆な程に擦り寄るけれど、リカルド二世の態度は彼女を受け入れても拒絶してもいない。
ファティマ姫もリカルド二世も、すごい人だと思う。
誰もが見惚れる美貌を持って今だって周囲を虜にしているファティマ姫の執着の相手はリカルド二世で、そのリカルド二世は麗しの姫君の目に見える愛情表現を意にも介さない。べったりと寄り添っている筈の二人の距離感は天と地ほどもありそうだし、俺の目からは不毛な関係にしか見えない。
どう見ても、一方通行な愛情。
それなのに二人とも平然としているのだから、すごいとしか言えない。
隣り合うファティマ姫とリカルド二世はどこまでも自然で、それなのにどこまでも不自然だ。
侘しい、というか、寂しい。
結婚してもあの二人は死ぬまで、ああやって歪な関係を続けていくのだろうか。疲れないのだろうか。お互いの持つ柵や欲だけでその選択を選び取れるのなら、俺の葛藤など随分ちっぽけなものに見えてしまうだろう。
きっとリカルド二世は理性で最善を選べる人だ。感情を切り捨てて、迷いも無く、一等の人生を歩んでいく。
泰然と立つリカルド二世に仄暗い感情が沸いてくる。
あの人の目に、右往左往する俺は煩わしく映るのだろう。感情に振り回されて、結局何も選べない俺が、愚かに映るのだろう。
憎悪でもってリカルド二世を睨んでいたから、というわけでは無いだろう。ただ何気なく、ふ、と顔を向けてきたリカルド二世の視線が僅かに俺の顔を掠めて、けれどこちらを認識した筈も無く、すぐに離れた。
リカルド二世の感情を乗せない瞳は、そうして俺をちっぽけな石ころにする。
だから、貴方が嫌いだよ。
重しをつけて沈めた感情を、リカルド二世の色のない表情が何時も浮上させる。
この世界に来てから、あの人に出会ってから――心は粟立ち、感情が燻り続けている。
だから、あの人が嫌い。
泣くことしか知らない幼い俺が、蘇るから。
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