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No.39
2009/12/09 (Wed) 23:19:11

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「俺と、付き合わねぇ?」


 ――驚くな、という方が無理だと思った。
 ちょっとそこまで付き合って、というような軽いノリで、とんでもない事を言ってのけた高橋は、手に持ったポテトチップスの欠片を何て事ない顔で口に運ぶ。パリ、と良い音が部屋の中で無駄に響いた。
「は?」
 思考がうまく追いつかないまま、呆けたように呟いた私に、高橋は小首を傾げた。
「何そんなに驚いてんの」
って。
 そっちこそ何を突然言い出したんだ、って私は固まったまま。
 嬉しい、なんて気持ちは浮かばなかった。だって高橋の言葉をそのまま鵜呑みに出来る程、私の脳は単純には出来ていない。この付き合ってが、私の思う付き合ってとは違うんだろうって思った。
 本当に、それこそちょっとそこまで、という話なのだと。
「どこに?」
 動揺はちっとも隠せない。だけど目一杯顰めた顔で聞いてしまう。
「ちげっつの」
 馬鹿にしたような笑いが高橋の口を飛び出る。
 そんな事は分かってるのだ。分かっているけれど、

 だって、
 じゃあ、
 何で、

 うまく言葉にならない。喉に言葉が引っ掛かって、魚みたいに口をぱくつかせてしまう。
 ひどく喉が渇く。ひどく騒ぐ心臓の鼓動を自覚する。
 違うって分かってる。そう言い聞かせながらも、でもどこかで期待してしまう私が居る。もしかしたら、まさか、高橋は私を好きだったりするんじゃないか、なんて。
 今までの高橋の言動行動から、確かに気に入ってくれているという自負はあるのだけれど、でもそれが恋愛感情じゃない事なんて知り過ぎる程知っていても、期待してしまう。

 瞬いた高橋の瞳を見返して、

「お互い都合がいいじゃん?」

 ――続いた言葉に、ああやっぱりなって思ったのに。
 それでも、まるで心臓を鷲掴みされたように痛かったんだ。

 高橋を怒鳴り散らす勢いで追い返した後、私はベッドに突っ伏して奴を罵りながら――泣いた。

 最悪。最低。阿呆。馬鹿。鈍感。
 最低、最低、最低、最低。
 ――大っ嫌い。

 どうして人が言いたくて言えない言葉を、あんなにもあっさりと口に出来るのだろう。
 どうして高橋は、ああなのだろう。
 どうしてそんな高橋が、私は好きなのだろう。
 どうして。
 どうして。
 どうして。

 何で?

 こんな関係、いっそ解消してしまえれば楽なのに。
 いっそ友達なんてやめて、離れてしまえればこんなに傷付かないですむのに。
 さっさと気持ちを曝け出して、いっその事清々しく振られてしまえれば、良いのに。
 それが出来ない自分が悔しい。
 こんな馬鹿みたいな友達関係でも、側に居たいなんて考えている自分が滑稽で、悔しくて、悲しくて。
 私はその日、ただひたすら泣いた。



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