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No.75
2010/03/05 (Fri) 04:05:25

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 冷静になって考えれば、すっごく惨めな状況だ。
 ドアを挟んで屋上と、こちら。それぞれ全く別々の緊張感が漂う場所。
 鉄扉に蝉のように張り付いて聞き耳を立てているのは、他人の恋愛話。ぐるりと辺りを一巡してみれば、仲の良い友人達。どいつもこいつも、純粋に心配したり応援したりしている顔。
 恋愛面で幸せなのだろう奴らは、俺のように若干の惨めさなんて感じても居ないだろう。
 俺だって彼女が欲しい。超絶募集中だ。俺の扉は全開だ。
 高橋がイイ奴でモテル要素満載であるのは承知の上だが、何で俺じゃあ駄目なんだろう。誰だっていいから彼女が欲しい、なんて豪語しているけど、俺だってそりゃ付き合うなら好意を持っている相手とが一番いい。菅ちんは綺麗で面白くて魅力たっぷりで、俺だって周りに漏れず好きだ。欲望塗れのそれではあるけれど、数日前に菅ちんが好きだと訴えてきた後輩の原島と同じ様に、菅ちんの好きな相手が高橋じゃなければ諸手を挙げて立候補したいぐらいだ。
 高橋が菅ちんを振るんなら、俺にしておけばいいのに。
 泣きながらそれでも高橋がいいのだと告白する痛々しい姿を覗き見ながら、強く強くそう思う。
 優しくしてあげたい。守ってあげたい。
 そんな気持ちが沸いてくる。
 どうしてあんな菅ちんを目の前にして、高橋があんなにも普通に突っ立ていられるのかが理解出来ない。
 ああ、と思ったら。
 突然菅ちんを抱き締めた高橋に、背後で息を飲む気配がする。
 俺は興奮状態に羽田の背中に乗り上げる。後で怒られる事必死な、完全に潰す様な力の入れ様だったのだけどそんな事には気づけない。羽田はさり気ない日向のフォローで俺の体の下から逃れたようではあったけど。
 何思わせ振りな態度を取っているんだ、高橋め!!
 今までの奴の態度から思うのはそんな所。声が遠くて全然聞こえないから、声を拾おうとしてどんどん前のめりになってしまう。
 菅ちんの姿はすっぽり高橋の中に隠れてしまっているから、どういうやり取りがされているのかは分からない。
 俺の背中に真知チャンのだと思われる温もり。
「……どうなってるの……?」
 日向は完全にこちら側を向いている。扉を背にして、ドアを押さえているその顔が、菜穂チャンの質問に答えるようにして困惑気味に変わる。
 誰も答えられない。
 何時だって予想外の高橋の行動が、俺らに把握出来る筈が無い。
 あの抱擁が、どんな意味を持っているか、なんて。ちっとも、分からないけど。
 しばらくして、菅ちんの手が高橋の背に周る。ゆっくり、控えめに。白い指先が高橋のシャツを握り締める。
「……え?」
 あれ、これってもしかして。
 羽田の素っ頓狂な声がして、
「も、限界」
 日向の唸る様な呟きがして、

 ぐらり、と体が傾いた。




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