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No.76
2010/03/05 (Fri) 04:47:18


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 覚悟を決めた菅野の告白に、アタシは心の中でガッツポーズを決めていた。結果がどうであれ、よくやったと頭を撫でてあげたい。プライドが高くて、実は臆病な菅野の勝算の低い告白――堰を切ったように泣き出した菅野に、よくやったと言ってあげたい。
 高橋が菅野に並々ならない好意を抱いているのはもう決定的だったけど、鈍感な奴はそれに気づかず仕舞いってのもありえそうで、こればっかりは本当に予想がつかなかった。
 でも兎に角、もうそろそろ何らかの形で決着をつけなくちゃ、菅野が限界だと分かっていたから。
 背中を押す、というには乱暴なシュチュエーションを作り上げてしまったのだけど。
 高橋が理子を抱き締めたのを見ても、半信半疑。
 声が全く拾えないから、どういう状況なのか判別つかない。
 背後から圧し掛かってくる重みは誰か、なんてどうでもいい位真剣に屋上の二人を凝視してしまっていた。
 いや、でも潰れる。圧迫感が半端無いぞ、と唸った所で、横合いから日向が引っ張り出してくれる。
 日向は片手でドアノブを掴んだまま、体全体でドアの開閉を抑えているから、完全に傍観者から外れてしまっていた。背中をドアに貼り付けて、足を踏ん張って、ついでにアタシの腕を身体まで支えているから。
 理子の腕が高橋の背に回ったのを確認した瞬間、日向の顔が歪んで、
「もう限界」
 ごめんと呟いたそれを認識するや否や、ドアは大きく外側へ開いていって。
 思いっきり身体を押し付けていたアタシ達は、屋上に雪崩れ込んだ。
 背後に居たのだろう高塚と真知子に、結果的にアタシは完全に潰された。
 隣で背中から転がった日向。唯一雪崩に巻き込まれなかったのは佐久間君と、彼に抱えられた菜穂だったけれど、完全に開き切ったドアのおかげで――つまり、そう。
 大きな音に驚いた二人が抱き合ったまま振り返って、目を見開くのをスローモーションで見ながら、こりゃあ皆丸見えだよなんて冷静に考えていた。
 
 あまりの衝撃に、二人は声も無いようだった。菅野なんか驚いてか涙が止まっていて、大きな目を見開いて二、三度瞬き、まるでダンスでも踊るかのような密着した身体を、慌てて解いた。
「な、にを……!」
 覚醒した途端に状況を瞬時に悟ってしまったのだろう、本当頭良い奴ってこれだから。
「してんのよ、あんた達はーっ!!」
 可愛げたっぷり泣いていた姿から一転、怒号を吐き出した時には既に何時も通りだった。
「いや、あの……」
「これは、その……ねぇ?」
 高塚と真知子がアタシの上から退きながら、しどろもどろに振り返る。
「えっと……」
「あー」
 菜穂はチラリと佐久間を見返り、佐久間は曖昧に微笑む。
「……」
 無言を貫いた日向は天空を仰いで、知らん顔。
 最終的に怒った菅野の顔はアタシに向けられた。
 高橋はまだ状況を理解出来ていないのか、理子の首に腕を巻きつけた状態で固まっている。
 アタシは誤魔化すようにスカートをはたきながら立ち上がって、コホンと咳払いを一つ。
「とりあえず、おめでとうでいいの?」
「っ」
 菅野の顔が真っ赤に染まるのを見る限り、話を摩り替えるのに成功したのだろう。
「え、じゃあ!!」
「付き合うの!?」
 菜穂と真知子が追従して喜びの声を上げるの、更にうろたえる菅野がおかしい。
 高橋はにやりと片頬を上げて笑うと、見せ付けるようにまた理子の身体を引き寄せた。
「偽彼氏は返上。これで正式に恋人って事だ」
 にくったらしい事に今まで散々人を振り回してくれた高橋の偉そうな態度。
「誰のおかげだよ」
ぽそり、佐久間のいつもの奴らしからぬ若干適当な相槌に心から頷いてしまう。
 本当に、全く。何様なんだ。
 だけど恥ずかしそうに俯いている理子を見ると、どうしてもそんな腹立たしい気分は霧散してしまう。
 まあ今日は許してやろう、なんて寛大な気持ちになってしまう。
「良かったねぇ!」
「おめでとー」
「全く、ヒヤヒヤさせんなよ……」
「これで独り身俺だけぇ?」
 それぞれの感想を聞きながら、ニヤつく顔を押さえられない。
 からかわれ慣れていないのか、菅野は成すがまま。腕に抱きついてくる菜穂に照れたように笑い、反対側で密着する高橋を見上げて顔を綻ばせて。
 嬉しそうに見詰め合う出来立てホヤホヤのカップルに、むくむくと浮かんでくる感情は。
「で、アンタ達。アタシらに、何か言う事は?」
 腕組してそう言うと、全員の視線がアタシに集まった。きょとん、と小首を傾げる菜穂の隣、菅野が気まずそうに視線を泳がす。
 でも、逃がさない。何時の間にかアタシの隣に並んだ日向が、「そうそう」と続きを促す。佐久間も佐久間で、今日に限っては「そうだねぇ。こればっかりは聞いておきたいなあ」なんて、暢気な声を上げながらも逃げを許さない態度。
「アタシら、色々動き回ったと思うんだよね。うん、ほんと」
 顔を合わせた菅野と高橋が、曖昧に笑い合うのを、わざとらしく嘆息しながら促す。
「そんなアタシらに、言う事は?」
 二人の視線が全員の顔を一巡した後、
「えーっと……その、何かいろいろ……」
「――すみませんでした?」

 菅野の言葉を引き取った高橋の語尾が疑問系だったのは、許してやろう。

 自然と寄り添った二人を見ながら、アタシ達は強張った肩を竦めて笑った。




END


これにていったん終点。ありがとうございました。
カップルになった二人のお話に続きます。(お題残り10話分)
その後大学生~社会人編の2ndシーズン予定です。あとは番外編とか諸々。
これ以後に関しては4月に帰省してから通常更新をしたいと思っています。
番外編は時間があればまたブログで書きたいなと思いますが、帰宅準備の残業月間になりそうなので、あくまで予定、といった感じです。

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