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No.79
2010/03/09 (Tue) 01:11:25

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 優しくされる事に免疫が無いから、単純だと自覚してしまっても、芽生えた恋心をどうにも出来なかった。
 きっと高橋君本人にしてみれば、既に記憶に無い行動かもしれない。わたしに好意を持っているから、拾ってくれたんだなんて思う程自意識過剰ではないし、むしろ高橋君はわたしの存在なんて知らないって分かってるんだけれど、それからのわたしの心のはしゃぎようったらもう、恥ずかしいくらいだった。
 高橋君の姿を無意識に探してしまったり、高橋君の名前を聞くだけで反応してしまったり、高橋君の話題に耳を欹ててしまったり。
 今までだったら告白の返事に「興味ない」なんて答える嫌味な冷血漢と感想を持ったくせに、今ではそれが、硬派なんだな、とか、真っ正直に答えてくれていい人だななんて思ったり。
 愛想が無い、態度が冷たいなんて嘆く女子生徒が、それでも彼に好意を抱く理由が共感できたり。
 馬鹿みたいだけど、全部が全部素敵な所に見えた。
 特に【放送ジャック】と呼ばれる事件以後は、友人想いで人の目なんて全然気にしない行動力のある所がすっごく素敵に思えた。
 高橋君の周りには何時も人が居て、それも彼の人柄故なんだろうなと、その姿を見つける度にほんわり胸が暖かくなった。現実では彼の周りには気後れしそうな目立つ人ばかりが集まっているからとてもお近づきにはなれないけれど、自分がその傍らで同じ様に集団の中で笑っている姿を妄想したりした。
 近づく事も、話しかける事も、ましてや彼の姿を遠くから見つめる事すら躊躇われる自分だから、告白なんて出来る筈もないんだけれど、どんどん膨らんでいく恋心は、日常を鮮やかに彩っていくようにも感じた。
 現実は何にも変わっていないけれど、不思議な事に毎日が楽しく思えた。
 今日はどんな高橋君が見れるのかな、どんな噂が聞けるのかな、って、そう思うだけでワクワクしたし、何時だって切欠があれば逃げ出したかった学校生活が楽しみになった。

 馬鹿みたいだけど。

 少しでも高橋君に近づける自分になりたいって。
 前向きな気持ちを抱いてから、わたしは少しだけ変わったように思う。



「ねーねー早苗ぇ」
 美香が綺麗に化粧した顔ににんまり笑顔を浮かべて、近づいてきた。わたしの机に乗り上げて腰掛ける、何時もの彼女の行動。
 どうして人の席に座るんだろう、この人。常識無さ過ぎ、とか今まではすっごく嫌悪を抱いたし、そんな風に扱われる自分の机が、まるで自分自身のようで不愉快だったけれど。
 今は、ちょっとだけ寛大になれる。
「なぁに」
「この間さ、男の子紹介するっつったじゃん?」
 携帯をかこかこ操作しながら、とある写真をわたしに見せてくる。
「コレ、あたしの彼氏のガッコの子」
 見せてくるのは派手な外見で、ポーズを撮っている三人の男の子。一番右側がその中でも一番美香好みの、彼氏。真ん中はぽっちゃりめだけど金髪。左側は髪の色はまともだけど、ピアスとか指輪とかがいっぱいついている。
「今度の休み、彼らと遊ぶから。ちょーっとあんたにはランク高いかもしれないけど、狙ってみたら?」
 いちいち嫌味ったらしい言い方。そう思っても、今までのあたしだったら愛想笑いしか出来なくって。嫌だって思っても、当日なし崩しに参加して、それでわたしの態度を怒られるんだろうけど。
「タイプ違い過ぎて、わたしには合わないんじゃないかな?」
 恐る恐る、だけれど。美香の目を見て返事も出来ないんだけど。携帯を凝視して、言葉を選んで、それでもしっかり主張してみた。
 これが精一杯。だけどわたしにしてみれば、大きな一歩。
 心臓はばくばく煩いし、美香の反応が怖くて仕方が無い。無いけど。
「あのあの、何話していいか分からないから、また空気壊しちゃうかも」
 前例を挙げて言えば、一拍あけて、美香が唸る。
「そしたらあんた、三組の遠野とかみたいなネクラメガネがいいわけ」
「えっと……遠野君がどんな人かは分からないけど、少なくともメガネの人は、き、嫌いじゃ、ないよ…」
 どもってしまうのがわたしらしくて情けないけど。スカートを握り締める掌が汗を掻いているのが見っとも無いけど。
「それに前から思ってたけど、なんで、毎回遠野君が出てくるの?」
 沈黙が怖くて、美香の表情が気になって、上目遣いに美香の顔を窺うと、美香は別段何時もと変わらなかった。
「中学一緒だったから、例に挙げやすいんだもん」
 って。なんでもない事のようにあっさり言う美香は、わたしをマジマジと観察しているようだった。
「あんた、どんなのがタイプなの」
 とても質問にそぐわない詰問調の問いかけだったけど、思ったよりはマトモに会話が出来ている事にほっとする。ほっとしついでに美香の顔を真正面から見ていた。
「タイプって……分かんない」
 小首を傾げるわたしに、美香は呆れ顔。
「じゃあ誰紹介したらいいのさ」
「……分かんない」
 少し考えてから小首を傾げて言うと、大きくため息をつかれてしまう。綺麗にネイルした指先でセットした髪を掻き揚げて、少し威圧的な雰囲気を醸して。
 でも、どうしてなんだろう。前に思っていたより、そこまで怖いと感じないのは。
「あんたケンが好きじゃん。だからこの左のなんかさ、ちょっと似た系統の顔だしいっかと思ったんだけど」
「いや……特に高橋君の顔はタイプじゃ……」
「はぁ?」
「ご、ごめんなさい」
「じゃ、何。何なの。誰がタイプなの」
「えと」
「性格で選んでんの? 何、冷たいヤツがいいの?」
「違います」
「じゃ、どんな」
「……分かんない……」
 矢継ぎ早に聞かれると、考える暇も無い。だからぽんぽん、会話が続いているのかもしれない。何かもう頭がパンクしそうになっていて、美香が何を思っているのだろうとか気にしている余裕も無かった。
「何盛り上がってんの、珍しい」
 そんなこんなしていたら外出していたルイが教室に戻ってきて、話に加わった。
「あ、聞いてルイ。早苗のくせして、あたしの紹介にケチつけんのよ」
 うっ。上から目線がまた出た。と卑屈な思いが過ぎった瞬間、
「へぇ、珍しい」
 ルイは楽しそうにカラカラ笑って、
「でっしょー?」
 応じる美香も、にっと口の端を上げて笑い出した。
「ケンが好きだからイヤだっつーんだよ、この子」
「そこまで言ってないっ!」
「あんた、ケンはやめなよ。振られんの分かってる相手、好きでどうする。他に目をむけなさい、いい加減」
 思わず否定すれば、今度はルイが酷い事を言う。いや、その通りだけれども。
「どうせ、あたしじゃ高橋君には似合わない。不釣合いだって分かってるもん……」
 分かってるのに、どうしてわざわざ、わたしを傷つけるのだろう。どうせあたしなんて不釣合いだ。ネガティブな気持ちが沸いてきて、俯くと
「ケンはいい男だけど、早苗には早苗に似合う人がいるんだって」
「そうそう、こいつらかどうかは置いといて」
 美香の手が頭に、ルイの手が肩に置かれる。慰めるように、撫でている。
「――え?」
「まね、あんた何時も本当雰囲気ぶち壊してくれるけども。それはあんたが悪いんだからね?」
「何時も下向いて人の話聞いてんだか聞いてないんだか。笑顔引きつってるし、話振っても適当に相槌打って止めるから」
「……ん?」
「男慣れしてないのは分かってっけど、もう少しヤル気出せ。来たからには」
 二人を交互に見て、わたしは目をぱちくりと瞬かせた。
 なんだか。何だろう。
「っていうか、これ今更言うの何だけど」
「それもそうだよ」
「しかも早苗がこんだけ喋ってんのとか珍しくない? 何時もあたしらの話聞いてるだけなのに」
「確かに。今までは何だったんだって話ね。これが地なのかよ、って」
「人見知りしてんだったら、長すぎだっつーね」
「あたしらももっと突っ込んでれば良かったね。話すの苦手なんかと思ってたわ」
 理解が追いつかない。
「えと、苦手だけども……」
「「面倒くさっ!!!」」
 二人は同時に言い放ったのだけれども、その表情は愉悦に満ちていた。
 けしてわたしを馬鹿にしている雰囲気でもなく、わたしの何時もと違う態度に苛立っている風もなく。
 確かに言葉は乱暴だし、痛い言葉を無造作に投げてくるけれど、今までに感じた程の悪意は無いように思える。
 そう思ったら、肩から力が抜けてしまった。
 行き着いた答えは単純明快。
 全部、わたしの被害妄想――というか、先行したイメージで決め付けていただけなのかもしれない、という事実。
 わたしは二人の上っ面しか見ていなかったのかもしれない。外見だけで、こういう人なのだと決め付けていただけかもしれない。
 人の上辺だけを見て判断して、だから簡単な人間関係しか作れないとそんな風に。




 些細な事で、高橋君を好きになって。多分にそれは憧れだったけれど。
 ただ同じ学校に通っただけ、何の繋がりももたないまま卒業していくだけだとしても。
 わたしは、高橋君が好きだった。

 友達想いで。
 真っ正直で。
 怖くてぶっきら棒で。
 冷たくて、乱暴で。
 時々優しくて。

 彼について知っていることは少ないし、それでいい。

 わたしを前向きにさせてくれた高橋君が、わたしは好きだった。

 彼の目は、わたしを見ない。
 彼にとってわたしは、誰でもない。
 わたしが気弱だろうが、根暗だろうが、オタクだろうが、美人だろうが、ブスだろうが。
 そんな事は彼は気にしない。
 彼にとったら、誰だって等しい。
 結局のところ、そこに憧れて、惹かれたのだ。




 ――これは、高橋君を好きになって変われた、一人の女の子のお話。

 
 

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