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No.257
2012/02/13 (Mon) 01:52:29

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 クレイジードッグ。

 誰が呼び出したのか。戦場に立つクラウスが、狂犬とあだ名されるようになって久しい。
 その戦い振り、否、殺し振りを見て、畏怖と共に呼ばれた名前は、クラウスにとって馴染み深かった。
 故国から離れた、宗教も違う国でも同じように呼ばれるのだから、自分は誰から見ても狂犬なのだろう、と笑えたのを覚えている。
 ウラウスが中東に来て間も無く、クラウスを買った組織は首領が捕縛されて散り散りになった。多くは似たような思想の組織に降ったが、クラウスは、ただ戦場にある事を選んだ。
 誰でも良かった。己の拳を振るい、満ち溢れる欲を発散出来るのなら、何でも良かった。
 市街地や森の中を走り回り、標的と認めたものを仕留める。時には何処かの組織に雇われ、思う存分力を振るった。
 銃は好きでは無かった。
 ひどく容易に人を殺す事は出来たけれど、それでは達成感も充実感も無い。己の拳で骨が砕ける感触を利き、恐怖に慄く顔を見るのが一番で、与えられた武器は早々に捨てた。
 それはクラウスにとっても危険な行為だったが、だからこそ、高揚した。

 そこかしこで銃声が鳴り響き、五月蝿い叫び声や足音がやって来ては消えていく。死体はどこにでも転がっていた。
 クラウスはそんな中を悠々と歩きながら、土煙の先に標的を見つけた。
 相手は長筒の銃を手に持っただけの、民間兵だった。
 対するクラウスは丸腰で、汚れたティーシャツとカーゴパンツを履いた少年だった。一見してそれは、戦闘に巻き込まれて逃げる子供に見えた事だろう。
 相手が戸惑い、構えた銃をどうするべきか迷っている事は、すぐに知れた。
 クラウスはけして、その町の住人には見えなかった事だろう。どこから見ても西洋人の少年が、どうしてこんな所に紛れているのか。情勢不安に陥っている国に、旅行してくるような一般人は酔狂が過ぎる。となれば、後は人身売買で売られて来た哀れな子供。
 そう位置づけたのか、相手は今一度銃を構えた。
 容赦を捨てた指が、引き金を引く。
 その瞬間、クラウスは地を蹴る。
 薬莢が次々と跳ね落ち、銃弾は空を切った。
 クラウスは怯むことなく走り続け、男に迫った。クラウスには、飛んでくる銃弾がスローモーションで見えた。避けるのは簡単だった。
 男の懐に入るのはさらに容易だった。銃身を滑ったクラウスの掌が男の手首を掴み、骨の砕ける音がする。
 絶叫。
 クラウスには通じぬ言葉の羅列が、甲高く叫んで途切れる。
 男の首に到達した小さな手は、ありえない力でその首を絞める。次いで、男の腹に膝をお見舞いすれば、けして細くは無い男の身体が地面から数センチ浮くほどの衝撃となる。
 情けを知らないのは、クラウスの方こそだった。
 男の顔にめり込んだ拳はその頬を陥没させ、吐き出された血を頭から被る。
 男に既に意識は無かっただろうか。手を離せばあっけ無い程に、崩れ落ちる身体。その身体に追い縋り、馬乗りになってもう二撃すれば、クラウスの拳は真っ赤に染まった。
 男の身体から流れる血は、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。
 クラウスは犬歯を剥き出して、笑った。激しく唄う心臓が、心地良い。

 また、どこかで銃声が響く。

 次の獲物を求めて、狂犬は、立ち上がった。

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