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No.256
2012/02/02 (Thu) 00:46:34

 
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 叩きつけるように行って、怒った身体が翻る。それをリカルドは止めなかった。
 重厚な扉が音を立てて閉じていくのを聞きながら、大きく溜息をつく。それから、デスクの二段目の引き出しを開いた。
 引き出しの一番上には数枚のプリントがホチキスで止められている。
 それをデスクの上に広げながら、リカルドは人差し指で唇を撫でた。
 彼が雇った探偵の報告書であるそこには、一人の少年の消息が記されている。
 忌み嫌われ恐れられ、切り捨てられた少年――クラウス・ルネッリ。彼が着せられた母親殺しの汚名はロッティ家が動いてすぐに削がれたが、少年のその後の逃亡は他に幾つかの罪科を生んでいた。
 だからリカルドは、フレンツォには何も話さなかった。
 クラウスが既に本土になく、誰を頼って何処に消えたのか。
 頼った先が自分たちではなく、マフィアであった事――それを伝える事を躊躇ったと言えば嘘になる。リカルドもまた彼を切り捨てた街の住民と同じく、クラウスを見限ったも当然だったからだ。
 本音を言えば、何時か自分達の右腕として、クラウスには活躍して欲しかった。彼の荒ぶる気性は成長と共に制御できるようになるだろうと思っていたし、踏まえた上で考えれば、クラウスの能力は魅力的だった。ラピスラズリ病の欠陥と恩恵の両方を携えたクラウスは非凡であった。まるでスポンジのように教えれば教えるだけに知識を吸収し、彼自身もその事に楽しみを覚えていた。
 けれどクラウスの本能は常に暴力を求めていた。
 少年が拳を血に染める時、その瞳は爛々と輝き、恍惚に微笑みさえ浮かべた。
 ――その事を、リカルド以上にクラウス本人は知っていただろう。
 凶暴な獣を内に潜ませる少年は、手懐けられる事を拒否した。

 その結果だ。

 クラウスは街を飛び出した後すぐに車を盗み、髪の色を染め、それを何度か繰り返しながら、あるマフィアに小競り合いを仕掛けた。マフィアの末端である人間を幾人も沈め、そして当たり前のように目をつけられたクラウス――そこで何があったのかは知れない。
 ただクラウスは、賭けに勝ったのだろう。
 少年はきっと望んで、『売られた』。
 内紛で戦争を繰り返している中東の地では、何時でも戦闘員を求めている。人身売買でクラウスが売られていったのは、幾つもある戦闘組織の一つだ。彼らが死のうが死ぬまいが、誰にとっても痛くも痒くも無い。
 国軍や国際連合の介入で戦闘グループは消滅と新設を繰り返す。その中で中東に送られていった人間の消息は、掴み切れない。
 探偵の報告もまた、クラウスが中東に送り込まれた時点で終了した。
 ――それが全てであり、もう、彼らに出来る事は無い。
 しかしリカルドが諦めたとして、事実を知ればフレンツォは、それでもクラウスを追うだろう。そうして何としてでも、連れ戻すに違いない。
 フレンツォは金も命も投げ打って、『弟』と定めた少年を救うだろう。
 そしてフレンツォならば、クラウスの身も心も、救い上げるのかも知れない。だがその為に、フレンツォを死地に送る事がリカルドには出来ない。
 そうしてまた、数多にとっては地獄でしかない、しかし少年にとっては天国ともいえる場所から、クラウスを引き剥がす事もリカルドには難しかった。
 何時爆ぜるか分からない爆弾を抱え柵と苦しみの中で生きるならいっそ、燃え尽きるまで発露してしまえ。
 飼い犬にはなれない、狂犬では飽き足らぬ、本当の獣になって、自由になって――それが幸せならば。

 燃える瞳が夢見ていた血と暴力に塗れた聖域で、少年が少年であり続けられるのであれば、それが一番なのだろう。

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