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No.263
2012/04/24 (Tue) 03:31:02

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 ――飽きているのは事実だ。
 そう心の内で呟きながら、クラウスは下ろした拳を見下ろした。
 こちらに来てから、クラウスはただ欲望にだけ従って来た。矛先は、どこにだって転がっていた。
 ただクラウスは欲望を発露すればそれで良かった。
 ――けれど、どうだろう。
 望んだ生活なのに、どこか味気なかった。
 狩りに没頭している間の高揚感に嘘はないし、そこに愉悦は確かにある。けれど終わった後に何時しか浮かんだ虚無感は、肥大して留まる所を知らない。
 ――こんなものなのか。
 何に対しての期待から感じる失望なのかはクラウスにも分からない。
 しかしだからと言って、身も知らぬ男に是と頷いてやる義理も無かった。
 クラウスは沈黙を返答代わりに、男を眺めた。
 男は薄ら笑いを消す事も無く、クラウスの不躾な視線を受け止め続けて、やがて呼気を吐くような囁きで“狂犬”と呟いた。
「その名は戦場なんかじゃなくて、街の中の方が相応しい。人々の嫌悪と恐れに晒されて、狂おしく、あるのが」
 まるで歌うように紡がれたその一文が、クラウスの中の何かを射止める。
 迷彩服の男の指先がその肩口で踊ると、それを合図に背後の四人は背を翻した。
「三日後にまた誘いに来るから、その時に返答を下さいな」
 最後に背を向けた迷彩服も「アリヴェデールラ(また会いましょう)」と、手を振る。
 その集団を、クラウスは迷う事なく呼び止めた。
「おい」
 不意打ちで放った拳は、やはり男の体に到達する事なく、背中を向けたままで避けられて。
 驚いた風も無く立ち止まる男の、広くも狭くも無い、逞しくも無い、かといって細くもない男の背を見ながら、クラウスは微かに犬歯を剥いた。
「連れてけよ」
「うん?」
「俺も、連れてけ」
 静かに振り返る迷彩服が、わざとらしく眉根を上げる。
 その男を追い抜き様、クラウスは言い放つ。
「当面の目的は、お前に一発決める事」
 にやにやと笑いながら、迷彩服は両手を広げた。
「勿論、歓迎するさ」

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