No.31
2009/11/18 (Wed) 16:22:55
起床してカーテンを開けてみれば、今日も外は相変わらずの雨だ。
どんよりとした灰色の雲の上の太陽は、一筋だって注いじゃいない。
――雨は嫌いじゃない。規則的に振り続ける雨の音も、独特の匂いも、どこか落ち着く。だからと言って何日も振り続けられると流石にうんざりとはする。
まあ梅雨だから、仕方が無い。
欠伸を噛み殺しながら自室を出て、ひんやりとした廊下を裸足の足で歩く。
紀子が結婚して家を出てから、この家に人気は無い。母親が死んでからの父親は一心不乱に仕事に打ち込み、そのせいで昇進を重ねて今や家に帰ってこれない程多忙だ。昨日も会社に泊まると電話が入ったから、数えて一週間父親に会ってない事になる。
父親が恋しい年齢でも無いし、俺としては一人暮らし気分を満喫出来て万々歳だ。
リビングの電気をつけて、冷蔵庫へ向かう。昨日の夕飯の残りを出して、コップに麦茶を注いだ。ご飯とハンバーグをレンジに入れ、その間にレタスを皿に盛る。プチトマトを軽く洗って上に乗せ、温まった飯とを持ってダイニングに移動した。
テレビをつけると、ニュースがほとんど。後は休日の朝にやっている子供向けの番組、アニメ。
右から左に聞き流しながらも、ニュース画面を見る。テロップが告げる天気予報は、今日も雨。
掻き込むようにして朝食を平らげ、洗面所に移動する。何時も通りあんまり寝癖のついていない髪を手櫛で整え、冷水で顔を洗った後歯を磨く。
スウェットパジャマを脱ぎ様、たまっている洗濯物と一緒に洗濯機に放り込んで、スイッチを入れる。
――一人暮らし気分は嬉しいが、炊事洗濯掃除全てを自分でやらなければならないのが面倒だ。おしゃべり好きの紀子にはうんざりしていたが、居ないと居ないで文句が出る。
「結婚とかはえぇし」
言っても仕方が無い事だが、一つ上の姉が結婚して、その腹に子供がいると思うと微妙な気分になる。相手がいいトシなんだから、ありえるってのはわかってるが。
部屋に戻ってクローゼットを開ける。適当に服を見繕って着替える。ついでにパーカーをハンガーから抜いて、ベッドに放る。
壁掛けの時計はまだ8時。
部活の無い休日とは言え、俺はいそいそと出かける仕度を始めた。
洗濯は当然のようにまだ廻っているが、これは帰ってから干そうと決める。
玄関の鍵をチェックしてから、俺はマンションを出た。
チャリで駅まで向かい、そこから電車に乗り込む。調度滑り込んできた車両に思わずほくそ笑んでしまう。なんてタイミングがいいんだろう。
理子の家までは三十分もあれば着く。
駅前のコンビニで今日発売のバスケ雑誌を買う。一応お礼の品でも買って行こうと、店内を物色しながら、新発売の菓子やらチョコやら飲み物やらをカゴに入れていたら、結構な量になってしまった。
コンビニで時間を食ったのか、理子の家に着いたのは9時チョイ過ぎだった。
外観の綺麗な一軒屋。ガーデニングに凝っているらしい理子の母親の手で、庭は綺麗に色づいている。雨に濡れる花や木々がいい雰囲気だ。アーチを描いた庭の入り口のポール(でいいのか?)には蔦が絡んでいて、足元には煉瓦が広がっている。この先にはなんかこ洒落た喫茶店でもありそうだな、と思う。
理子の家に来るのは二度目で、その時は周りに目を配る事もしなかったから、こんな風になっているとは思わなかった。近所の中でも一際目立つその家のチャイムを鳴らすと、少しして玄関のドアが開いた。
「……おはよう」
「おす」
ドアノブに手をやったままで、理子が苦笑しながらくれた挨拶に俺は手を上げて答える。
休日の、それも早い時間から、やっぱり理子は完璧だった。細身のパンツや白いニットの上着は理子のスタイルの良さを強調している。
肘でドアを押さえながら、理子が少し身体を中に戻し、DVDを差し出してくる。
「はい、」
その瞳が怪訝そうに、俺の大荷物を見た。
「何それ」
大きなコンビニ袋を持っている俺は、夕食の買い物でもして帰ってきた主婦みたいになっている。
「何って土産?」
袋を胸の位置まで上げて言うと、理子は
「そんなのいらないのに」
とか可愛くない事を言う。まあでも、土産ってのは半分本当で半分嘘だ。ほとんどは自分が食べたくなって買い込んだ菓子なのだから。
「まあでも、ありがとう。……えーと、袋ごともらっていいの?」
「あー俺の雑誌とかも入ってるから、」
「……じゃあ、とりあえず袋かして。これ、どれもらっていいの?」
一度DVDを家の中に戻してから、理子が両手を差し出して来たのでその手にコンビニ袋を手渡して。
「てか、上がらせて」
「――は!?」
「だってDVDここでダビングした方がはえぇし。返すのも面倒。その間買ってきた菓子食おうぜ。限定品とか一杯あっから」
最初からそのつもりだったわけでも無いのだが、空のDVDは持参済みだった。折角買った菓子も食いたくなっていたし、雨だし。
なのに理子はありえない、とでも言いたげにきょとんとした顔。
「じゃああげるよ!」
そこまで嫌そうにされると傷付くわっ!!
「なんでだよ、いいよ。それに、」
俺の中では上がりこむのが決定事項で、早速傘を畳んで一歩を踏み出す。
「だって外、寒いじゃん?」
思いの他梅雨の時期は寒い、というのを毎年実感しながら、今日も若干薄着だった俺は成長しないかもしれない。
こういう言い方をしてしまえば理子が、断れないと分かっていたのもあるが。
「……今日家、誰も居ないんだけど」
「お、ラッキー。楽でいいじゃん」
気まずそうな理子の肩を押しながら玄関に押し込むと、理子は何とも言えない顔でため息をついて、「馬鹿」とか小声で呟く。
全く意味が分からん理子の様子を無視して、俺はさっさか靴を脱いで、理子の部屋のある二階へと歩を進めた。
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どんよりとした灰色の雲の上の太陽は、一筋だって注いじゃいない。
――雨は嫌いじゃない。規則的に振り続ける雨の音も、独特の匂いも、どこか落ち着く。だからと言って何日も振り続けられると流石にうんざりとはする。
まあ梅雨だから、仕方が無い。
欠伸を噛み殺しながら自室を出て、ひんやりとした廊下を裸足の足で歩く。
紀子が結婚して家を出てから、この家に人気は無い。母親が死んでからの父親は一心不乱に仕事に打ち込み、そのせいで昇進を重ねて今や家に帰ってこれない程多忙だ。昨日も会社に泊まると電話が入ったから、数えて一週間父親に会ってない事になる。
父親が恋しい年齢でも無いし、俺としては一人暮らし気分を満喫出来て万々歳だ。
リビングの電気をつけて、冷蔵庫へ向かう。昨日の夕飯の残りを出して、コップに麦茶を注いだ。ご飯とハンバーグをレンジに入れ、その間にレタスを皿に盛る。プチトマトを軽く洗って上に乗せ、温まった飯とを持ってダイニングに移動した。
テレビをつけると、ニュースがほとんど。後は休日の朝にやっている子供向けの番組、アニメ。
右から左に聞き流しながらも、ニュース画面を見る。テロップが告げる天気予報は、今日も雨。
掻き込むようにして朝食を平らげ、洗面所に移動する。何時も通りあんまり寝癖のついていない髪を手櫛で整え、冷水で顔を洗った後歯を磨く。
スウェットパジャマを脱ぎ様、たまっている洗濯物と一緒に洗濯機に放り込んで、スイッチを入れる。
――一人暮らし気分は嬉しいが、炊事洗濯掃除全てを自分でやらなければならないのが面倒だ。おしゃべり好きの紀子にはうんざりしていたが、居ないと居ないで文句が出る。
「結婚とかはえぇし」
言っても仕方が無い事だが、一つ上の姉が結婚して、その腹に子供がいると思うと微妙な気分になる。相手がいいトシなんだから、ありえるってのはわかってるが。
部屋に戻ってクローゼットを開ける。適当に服を見繕って着替える。ついでにパーカーをハンガーから抜いて、ベッドに放る。
壁掛けの時計はまだ8時。
部活の無い休日とは言え、俺はいそいそと出かける仕度を始めた。
洗濯は当然のようにまだ廻っているが、これは帰ってから干そうと決める。
玄関の鍵をチェックしてから、俺はマンションを出た。
チャリで駅まで向かい、そこから電車に乗り込む。調度滑り込んできた車両に思わずほくそ笑んでしまう。なんてタイミングがいいんだろう。
理子の家までは三十分もあれば着く。
駅前のコンビニで今日発売のバスケ雑誌を買う。一応お礼の品でも買って行こうと、店内を物色しながら、新発売の菓子やらチョコやら飲み物やらをカゴに入れていたら、結構な量になってしまった。
コンビニで時間を食ったのか、理子の家に着いたのは9時チョイ過ぎだった。
外観の綺麗な一軒屋。ガーデニングに凝っているらしい理子の母親の手で、庭は綺麗に色づいている。雨に濡れる花や木々がいい雰囲気だ。アーチを描いた庭の入り口のポール(でいいのか?)には蔦が絡んでいて、足元には煉瓦が広がっている。この先にはなんかこ洒落た喫茶店でもありそうだな、と思う。
理子の家に来るのは二度目で、その時は周りに目を配る事もしなかったから、こんな風になっているとは思わなかった。近所の中でも一際目立つその家のチャイムを鳴らすと、少しして玄関のドアが開いた。
「……おはよう」
「おす」
ドアノブに手をやったままで、理子が苦笑しながらくれた挨拶に俺は手を上げて答える。
休日の、それも早い時間から、やっぱり理子は完璧だった。細身のパンツや白いニットの上着は理子のスタイルの良さを強調している。
肘でドアを押さえながら、理子が少し身体を中に戻し、DVDを差し出してくる。
「はい、」
その瞳が怪訝そうに、俺の大荷物を見た。
「何それ」
大きなコンビニ袋を持っている俺は、夕食の買い物でもして帰ってきた主婦みたいになっている。
「何って土産?」
袋を胸の位置まで上げて言うと、理子は
「そんなのいらないのに」
とか可愛くない事を言う。まあでも、土産ってのは半分本当で半分嘘だ。ほとんどは自分が食べたくなって買い込んだ菓子なのだから。
「まあでも、ありがとう。……えーと、袋ごともらっていいの?」
「あー俺の雑誌とかも入ってるから、」
「……じゃあ、とりあえず袋かして。これ、どれもらっていいの?」
一度DVDを家の中に戻してから、理子が両手を差し出して来たのでその手にコンビニ袋を手渡して。
「てか、上がらせて」
「――は!?」
「だってDVDここでダビングした方がはえぇし。返すのも面倒。その間買ってきた菓子食おうぜ。限定品とか一杯あっから」
最初からそのつもりだったわけでも無いのだが、空のDVDは持参済みだった。折角買った菓子も食いたくなっていたし、雨だし。
なのに理子はありえない、とでも言いたげにきょとんとした顔。
「じゃああげるよ!」
そこまで嫌そうにされると傷付くわっ!!
「なんでだよ、いいよ。それに、」
俺の中では上がりこむのが決定事項で、早速傘を畳んで一歩を踏み出す。
「だって外、寒いじゃん?」
思いの他梅雨の時期は寒い、というのを毎年実感しながら、今日も若干薄着だった俺は成長しないかもしれない。
こういう言い方をしてしまえば理子が、断れないと分かっていたのもあるが。
「……今日家、誰も居ないんだけど」
「お、ラッキー。楽でいいじゃん」
気まずそうな理子の肩を押しながら玄関に押し込むと、理子は何とも言えない顔でため息をついて、「馬鹿」とか小声で呟く。
全く意味が分からん理子の様子を無視して、俺はさっさか靴を脱いで、理子の部屋のある二階へと歩を進めた。
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