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No.41
2009/12/14 (Mon) 23:25:08

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 廊下側一列目、最後尾の私の席は、教室の後ろのドアがすぐそこだ。
 気がつけばドアを挟んで教室側に佐久間君、廊下側に日向君が立っている。
 日向君は肩に英和辞書を担いでいて、どうやらそれを佐久間君に借りた様子だ。そのままこっちに寄って来て、窓枠に寄りかかる。
「何の話?」
 にっこり笑った日向君と、いまだドアの横で苦笑している佐久間君を代わる代わるに見つめていると、佐久間君は一度廊下に出てから日向君の隣に並んだ。
「ごめんね、邪魔してない?」
 どうやら話し易いように移動してくれたらしい。――のだけれど、今の会話の流れで言うと正直聞いて欲しい内容では無い。否、これを機に別の話に持っていこう、と口を開きかけた矢先、
「今日高橋調子悪そうだったじゃん?」
 羽田に先を越されてしまう。
「ああ、確かに。なんか集中してなかったね」
「あれって何で?」
 羽田が今度はどこからともなくポッキーの袋を取り出して、それを差し出しながら。
「何か聞いてる?」
「いや、聞いてない」
 日向君がまずポッキーを取って、佐久間君が私に「どうぞ」と目配せしてくれて、私が一本もらってから自分も続く。そんな佐久間君にありがととか言っている間に話が進んでしまうから、口を挟む切欠を失った。
「役に立たないなー」
「そこは羽田の観察眼でどうにか推測してよ」
 ぽきぽき、ポッキーを噛み砕く音が響く。
「じゃ、何か菅野の事とか言ってた?」
「いや……別段」
「うん」
 何かあったの? と、不思議そうな日向君佐久間君の視線をくらって、曖昧に笑うしかない。
「いや、別にね……」
「何かまたひと悶着あったみたいよ」
「羽田!!」
 お願いだから黙ってくれ、という意味をこめて声を荒げても、羽田はちっとも気にしてくれない。こちらを向いた羽田の顔は、それ所か「ホラ説明しなよ」と言った感じで、私に続きを促している。
 佐久間君日向君も然り。
「あの馬鹿、また何か迷惑かけた?」
 男子陣の保護者の位置づけになっている佐久間君は、話す前からもう謝る姿勢。
「いえ、あの、別にね……」
「どうせまた無遠慮な事言ったんでしょ、タケが」
「いえ、そこまでは、」
「わかるわかる。あのお子ちゃま、菅野の逆鱗に触れる事しかしないしねぇ」
「いえ、別にそこまで怒る事があったってワケじゃなくて、」
「軽くお灸据えておくから、ごめんね理子サン」
「いえ、あの、そんな事してもらわなくても」
「アタシ、菅野の代わりに殴っておこうか?」
「いえ、ほんと別に!!」
「理子さん、何があったか知らないけど、もっと怒っていいんだよ?」
「いえいえいえ!!」
 何があったか知らないけど、怒っていいってどういう了見なのだ、日向君。
「確かに高橋の言動が腹立ったのは確かで、それでまた喧嘩したっていうか、また私がキレたっていうか……それは事実なんだけど、でも、あの……今回はね!?」
 何だか高橋だけ責められている状態が居た堪れなくって、庇うような言動になってしまう。
 いや、今回に限っては。
「……むしろ、あっちが怒ってるかもっていうか……」
 どうにかこうにかして三人の言葉を止めたくてそこまで言ってしまってから、はっとした。俯きがちだった顔を上げる。
「「「何があったの?」」」
 心から心配してくれているのがわかる、佐久間君。ただただ面白そうだと、興味心身になっている日向君。にたにたと、してやったりな顔をしている羽田。
 あれ、これってもしかしてやってしまった? なんて思っても後の祭りだ。
「……いや、あの……」
「理子サン、タケを庇わなくってもいいんだよ?」
 佐久間君は会って間もないのに、何故だか私の心棒者である。それは菜穂から聞いた英雄譚もどきの過去がいけないのだろうけど、何時だって私の肩を持ってくれる。
 それが時々心苦しい。
 羽田達と違って、真剣に対応してくれようとするからこそ、曖昧にぼかせない。
「いや、あのですね……」
「ほんとの事言って? タケが何したの?」
この人には放っておいてくれ、とは言えない。菜穂にもそんな事言ったら泣きそうでいえないけど、ある意味似たものカップルなのだこの二人は。
「……何があったっていうか、ね……?」
「うん」
「何時もの事なんですけど、」
「うん」
 駄目だ。うまく逃げられる気がしない。
 こういう時に限って羽田と日向君の二人は口を閉ざす。自分達が口を挟めば私に逃げの一手を与える事を良く知っているのだ。あわよくば二人に矛を向けて逃げ出せる、のに。
 次第に下がっていく視線は、机の上を凝視してしまう。茶色い木の机、所々に擦れたような傷。
 まだ次の授業は始まらないのかと腕時計に目をやれば、まだ五分も残っている。
「……えーと、」
 このまま白状するしかないのか、と唇を噛んだところで、救いは意外な所から現われた。



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